不思議な扇にまつわる伝説
短天扇・・・心清き者のみに開く事ができるという不思議な扇、その扇を開くことが出来たなら、大地の精霊万難地天より大いなる成長の機会が与えられるであろう。
ここまで来るとお決まりなので、予想された方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)
俺の名前は 七梨太助 14歳 中学二年だ。世界中を飛びまわる家族の為、独り暮らしを余儀なくされている。ある日父親から、手紙と共に奇妙なものが届いた。
鍛えて 万難地天!
「万難地天 召来!」
『ニーハオ! 太助。中国で知り合ったチョンファーさんがこの仏像がは失敗作ので、庭の肥やしにでもしてくれとくれた物だ。しかし、父さんは旅人なので、庭がない、仕方が無いのでお前にやろう』
と手紙には書かれていた。俺の目の前には仏像? とおぼしき塊がある。
太助「なんじゃそりゃ? そんなものより、元気な面の一つでも見せに帰ってこいっての」
と、毒舌と共にため息を一つ吐く。俺の視界に隅に小さなものが入った。
太助「ん・・・なんじゃこりゃ?・・・・おまけ(笑)?」
俺はそれを手に取りしげしげと眺める。
太助「うへー、小さいなぁ。確かにおまけって感じだけど・・・・作りが結構細かいなぁ」
それは細部の凹凸までしっかりと作り込まれていた。こんな仏像もどきよりもちゃんと出来ている。
太助「なんだろう? 扇?」
俺はそれを開いた。その刹那。
キーーーー−ン
なにやら耳鳴りのような音が鼓膜に響き、開いた扇がみるみるうちに大きくなる。
太助「な、なんだ?」
驚き思わず扇を取り落とす。扇はまだまだ大きくなる。普通に使える扇の大きさになると、真中の四角い飾りがら光が放たれた、
太助「な、何事だぁ?」
その光は人の形を成し、ひ、ひと? 俺は思わず数歩後ずさる。そして言葉を発した。
??「はじめまして。主殿」
燃えるような紅の髪をした少女が現れたその声は凛々かったが・・・
太助「うわぁ、喋った!? 扇から、人が出てきて喋った! 中国から送られて来たのに、いきなり日本語で!」(オイ)
あまりの出来事に俺はパニックに陥った。
??「私の名は万難地天紀柳・・・」
太助「どわ〜!!」
当の俺はわめきながら、部屋を右往左往する。
紀柳「・・・成長を司る大地の精霊だ・・・」
太助「うわ〜!!」
彼女の言葉など当然耳に入っていない。
紀柳「私は、貴方に試練を・・・」
太助「ぎゃ〜!」
彼女のこめかみに血管が浮かぶ。扇を静かに構え、呪言を唱える。
『万象大乱!!』
どっかーん!
近くにあったソファーが突如巨大化し俺を吹き飛ばした。
ゴロゴロゴロ、ガン
吹き飛ばされた俺は転がり、棚にぶつかる。ぶつかった拍子に棚の上の物が幾つか俺に降り注ぐ。
ドカッドカッ バキッ!
そのうちの一つが俺の頭を直撃した。突如視界が暗転する。
私は、わめきちらし走り回る新たな主の不甲斐なさと騒々しさに、腹を立て、
『万象大乱』
主殿の側にあった柔らかそうな椅子を巨大化させる。
どっかーん!
見事に主殿を吹き飛ばした。吹き飛ばされた主殿は転がり、部屋の隅にあった、棚に激突する
ゴロゴロゴロ、ガン
ぶつかった拍子に棚の上の物が幾つか主殿に降り注ぐ。流石にここまでなるとは私も、予想出来なかった。
ドカッドカッ バキッ!
うずくまっている主殿に私は声を掛ける。
紀柳「試練だ。耐えられよ」
太助「・・・・・」
しかし、主殿からの返事がない
紀柳「主殿?」
太助「・・・・・」
紀柳「おーい。主殿ぉ?」
太助「・・・・・」
紀柳「・・・・・・・・・・・」
どうやら打ち所が悪かったらしく、主殿はそのまま気を失ってしまったらしい。これは困った。その時私の頭に大粒の汗の印が浮かんだ。
このまま、帰っってしまおうか・・・
そんな無責任な思いが私を一瞬支配した。
太助「ん・・・」
額に冷たい感覚を憶える気持ちが良い、濡れタオルみたいだ。視界には天井の他に、キリッとした少女の顔があった。
紀柳「気が付かれたか? 主殿」
太助「俺は・・・どうして・・・そうか、扇から人が出てきて・・・・」
紀柳「それは、私の事だ」
太助「うおっ!」
紀柳「少しは静かにされよ」
ごすっ、閉じた短天扇で俺の頭を小突く
太助「痛いんですけど・・・」
紀柳「試練だ。我慢されよ」
太助「試練?」
紀柳「そうだ、試練だ。そういえば自己紹介がまだだったな」
紀柳「私の名は万難地天紀柳。成長を司る大地の精霊だ。私は貴方に試練を与える為に参った」
太助「さっきのが試練?」
紀柳「そうだ」
太助「只の暴力じゃ・・・」
紀柳「試練だ」
きっぱりと言い放つ。いささか釈然としないものがあったのだが、ここはそういう事にしておくとする。
太助「・・・・まあいいや、俺の名前は七梨太助。さっきは格好悪い所を見せちゃったな」
紀柳「全くだ。見苦しいにも程がある。男ならもっと、何事にもドンと構えるべきだ」
太助「手厳しいな」
あまりにもはっきり言われてしまい、俺は苦笑いするしか無かった。俺は自分に掛けられていたタオルケットと濡れタオルを指差し、
太助「この濡れタオルと、タオルケットは君が?」
紀柳「ああ、そうだ。勝手に人の家ものに手をつけるのは少々気が引けたが、場合が場合だったので、勝手に家の中から持ってきてしまったが・・・」
太助「そうか、サンキューな」
紀柳「と、当然の事をしたまでだ。主殿が気を失う原因は私にあった訳出し、あ、主殿が礼をいう必要なない」
言葉は男のような少し乱暴な口調であったが、その顔は少し照れていて、頬にほのかな赤みがさしていた。
可愛いな。俺は不謹慎にもそう思った。
紀柳「ところで主殿。つかぬことを尋ねるが。主殿のご家族は?」
殿ですかい(今更気付く)・・・思わず俺は言葉を噤んだ。
太助「・・・・」
紀柳「あれだけの大騒ぎをして誰も来ないとは、留守なのか?」
太助「ああ、留守だよ。しかも何年も・・・うちの連中は世界中を飛びまわってるよ」
俺は少し投げやりに言った。
紀柳「そうか・・・主殿。貴方は御幾つかな?」
太助「俺の歳? 14だけど・・・・」
紀柳「・・・・そうか、その歳でか、それは酷だな・・・・寂しくはないか? 独りで平気なのか?」
幾ら馴れていても、平気なはずがない。俺は思わず声を荒げる。
太助「平気なわけないだろ!!」
紀柳も自分の失言に気付きすぐに謝る
紀柳「・・・・酷いことを言ってしまった、済まない主殿」
太助「・・・いいよ。別に・・・」
俺はなげやりに答えた。紀柳は数秒考え、ため息を一つ吐きながら立ち上がりゆっくりと言葉を発した。
紀柳「なあ、主殿。もし貴方に与えられたこの環境が試練ならば、貴方はもうすでに試練を受けている。ならばこれ以上試練を受ける必要は多分無いだろう」
その時の紀柳の表情は少し寂しげだった。
紀柳「私は短天扇に帰るとしよう・・・さらばだ。主殿」
このままでは、いけない・・・・
太助「オイ、まってくれ 紀柳」
俺は思わず口が開き、彼女を引きとめてしまった。
紀柳「なんだ?」
太助「・・・・・」
引きとめられて振り向く紀柳。確かにいきなり試練だとか言われて、とんでもない目に合うのは嫌かも知れない。しかし、この家に自分意外の人が居る。それだけで俺には十分有意義なような気がする、それではいけないのだろうか? 不純な動機かもしれないけど、独りはもう嫌だ。紀柳の言う通り、独りでいるのだ試練なら、俺はそれを乗り越えたい。独りで居る事を克服するのとは意味が違うが、一歩前に踏み出したかった。
「なあ、紀柳。万難地天のの試練って一体どんな物なんだ?」
その時の紀柳の驚いたような嬉しそうな顔を俺は一生忘れない。
『鍛えて 万難地天!』 完
あとがき
どうも、ここではお初です。ふぉうりん と申します。
あまりに素敵なネタ事故が発生した為、
『二つ並べたら面白そうですね』
との私めの暴言により投稿させていただく事になりました。
以下まとまりが悪くなるのでカットしてしまった。
おまけをば
平気なわけないか・・・当然の返答だ。私は数秒考え、一つ答えを導き出す。そして、軽くため息を一つ吐きながら立ち上がりゆっくりと言葉を発した。
紀柳「なあ、主殿。もし貴方に与えられたこの環境が試練ならば、貴方はもうすでに試練を受けている。ならばこれ以上試練を受ける必要は多分無いだろう」
私は言葉に出してから思う。甘くなったのだろうか? それとも主殿の身の上に同情したのだろうか? 解らない。が、私の覚悟は出来ていた。また短天扇に帰り、次の主との出会いを待つとしよう。
紀柳「私は短天扇に帰るとしよう・・・さらばだ。主殿」
主殿に背を向け短天扇に帰ろうとする。
太助「オイ、まってくれ 紀柳」
紀柳「なんだ?」
主殿に呼びと止められ振り向く。
太助「・・・・・」
その時の主殿の顔は何かを決意したような顔だった。
「なあ、紀柳。万難地天の試練って一体どんな物なんだ?」
その時、私は一体どんな顔をしていたのだろう? 多分笑っていたのだと思う。
「万難地天の試練は厳しいぞ。音を上げるなよ。主殿」
『鍛えて 万難地天!』 こんどこそ完
最後まで読んで下さった方ありがとう
そして、こちら側(笑)の太助君と紀柳さんに幸あれ。
2001年5月15日 ふぉうりん
さぁて、皆さん。ふぉうりんさんの素晴らしいSSを読んだ後に、ハルカのヘッポコSSはいかがでしょうか?(爆)
「ずっと一緒に・・万難地天!」 ハルカ作、同ネタのSSです。同じネタでも書く人間が違うと、ここまで変わる!!
あわせてご笑覧頂ければ幸いです。