まもって守護月天
〜22Century〜
〜36話(ちょこっとLOVE)〜
2月14日。この日にちを聞いて反応する者は多いハズ。
そうです。そーなんです。
花織「サン=バレンティーノの処刑された日」
ルーアン「ふむ、なるほど…」
サン=バレンティーノさんが、兵達の結婚の禁止という法に異を唱え皇帝に抗議し、こっそり兵達を結婚させてあげたために捕らえられ、処刑されてしまったのですねー。
ルーアン「飲み会辺りで博識ぶれるわね」
シャオ「バレンタインの由来くらいで自慢出来ますかね?」
って知ってるよこの人。
シャオ「それくらい知ってますよ。 馬鹿にしないで欲しいですね」←この人
ルーアン「…。 と、ともかく、昔はどうあれ今じゃ単なるチョコ配布のイベントになっちゃってるけど」
シャオ「なんでチョコなんでしょうかね?」
ルーアン「1958年に、東京の洋菓子屋がそんな戦略を出してからなんだって」
シャオ「…はじめてです」
ルーアン「は?」
シャオ「はじめてルーアン姉ぇが真っ当な教師に見えました」
ルーアン「ンだとコノヤロウ」
リビングの外では、二人の会話を偶然聞いてしまったこの家で唯一の男が動きを止めていた。
太助「……ち、チョコ…だと!?」
肩が小刻みに震える。その表情は決して嬉嬉としているものではない。
キリュウ「…何やってんのだ主殿」
二階から降りてきたキリュウが尋ねるが、太助は反応しない。無言で肩を震わせる後姿は、寒さで凍えているようにも見える。
太助「ち、チョコ…」
キリュウ「…はい?」
太助「アイツらが、チョコだって言ってた…」
キリュウ「そりゃぁ、もうすぐバレンタインだから話題にも上がるだろう」
もしや、とキリュウは尋ねた。
キリュウ「もしかして主殿、チョコレートが嫌いなのか?」
太助「いや、そういうワケでは無いんだが…」
キリュウ「曖昧だな」
太助「例えるなら某妖精界の王子くらい」
キリュウ「めちゃめちゃ好きって事かい」
太助「だって美味しいし美味いもん!」
キリュウ「わざとらしく繰り返さなくても…――? だったら何故嫌そうな顔をしていたのだ?」
「もしかしたらくれるやもしれぬぞ?」と付け加えると、太助は涙目でキリュウに突っかかった。
太助「だから嫌なんだよ。アイツらだぞ?笑顔で人の飯に致死量の云十倍の“モノ”を入れる奴らだぞ?」
キリュウ「ルーアン姉ぇはそんな事しないと思うが、原作と違って」
しかし、キリュウの予想はマズかった。
TAKASI「まぁ、俺も自他共に認める『チョコレイター』だがな」
翔子「何やってる人だお前は」
TAKASI「評論とか公演とか」
翔子「活動してんのっ!?」
ルーアン「で、評論してくれるの?」
ルーアンの手には、試作品だろうか数種類のブロック型のチョコが盆に乗っている。TAKASIは、それらを一瞥する――カタチは悪くない、普通の色のがあれば、ミルクチョコ(っぽいの)やイチゴチョコ(っぽいの)もある。
翔子「じゃぁアタシも貰って良い?」
ルーアン「良いわよ、味見役は多い方が良いし」
それぞれチョコをひとつ摘み、口に放り込み、舐めたり、噛んだり。
TAKASI「……!」
突然、TAKASIの鼻から真紅のものが噴き出した。噴水のように勢い良くソレは流れ、みるみる内に床に小さな紅の池を作り、代わりに血の気を失った彼は、ぐったりと床に突っ伏した。
ルーアン「あちゃぁ」
『あちゃぁ』じゃ無ぇっつの。
貧血のTAKASIの表情は、蒼白、白目と絶対に美味しい表情には程遠い。
ルーアン「『情熱』をイメージに作ったんだけど…こだわり過ぎたかしら?」
翔子「……。」
一方の翔子はというと、何度か咀嚼している内に慌てて口を押さえた。込み上げる嘔吐感。強烈な甘味、辛味、苦味、渋味、酸味と全ての味覚が神経を麻痺させる――
翔子「る、ルーアン先生よ…こりゃぁいってぇ何なんでぇ……(死にかけ)」
ルーアン「んーと、スピリットレヴォリューション的な味を狙ってね? ありとあらゆる珍味や美味をこの約1立法センチのチョコレートに濃縮してみたんだけど…」
翔子「道理で…――森羅万象の味が詰め込められて殺し合いしてやがる」
朦朧とした意識の中で「言わば、味と味とのバトルロワイヤル…」と言い残して、翔子ちん死亡。
その一方。
花織「出雲さ〜ん、チョコ食べれ〜」
出雲「いきなり命令形ですか花織さん」
購買部。昼放課の販売の準備を終え、意外な訪問者の出現に彼は窓ガラスを開けた。
出雲「何のようですか…って今言いましたね。チョコですか?」
花織「チョコです。それ以上でもそれ以下でもありません」
自信を込めて、『XMFA-09』(←試作品という意味だろう)と書かれた箱が開かれる。
出雲「…明らかにチョコとは別物ですねぇ」
香ばしい香り奏でるそれは、どう見てもケーキ。別物と言えど、見た目香り共に悪くない。
………あれ? 普通?
出雲(いえ、見た目で騙されてお星様になった例など星の数ほどある…油断するなかれ、なかれ…)
「早く味の感想聞かせろー」と見つめる花織からは見えないよう後ろ手で商品棚から胃薬があるのを確認し、出雲は一切れフォークで取り、頬張った。
僅かな沈黙。咀嚼を終え、飲み込む。
花織「どうですか」
出雲「……花織さん、何か悪い物食べませんでした?」
花織「は?」
出雲「でなければ、宇宙人にアブダクションされたりとか、ゴルゴムに改造されたりとか…」
花織「後者はされたいですけど…」
出雲「というかアナタ花織さんですか!?」
花織「純100%で花織さんです」
実は偽者かコピーロボットとかでしょう!?などと言いたい放題わめく出雲だったが、それだけ信じられなかった。
美味しいのだ、このケーキ。
花織「沁み込ませたブランデーとドライフルーツがコツなんです」
出雲「登場して以来どうも原作との違いが希薄だ希薄だと思っていましたが…なるほど、この点ですか。お見逸れしましたよ」
花織「えへへー、称号だって持ってるんですよ」
出雲「称号…?」
花織「その名も『シスター味っ子』」
出雲「…!Σ( ̄△ ̄;;;」
意外なパテシエの存在が発覚してから数日後。
シャオ「午後の授業自習になってるから何だと思えば…」
調理室の一角で、何やら勤しんでいる影ひとつ。
ルーアン「なによ、自習してるんだから良いじゃない」
先生が勉強するために自習はあるんじゃないと思う。芳しいよりも焦げ臭い香りが充満しており、ステンレスのテーブルには、完成した試作品が多く並んでいる。
シャオ「今回はまるで私が善側じゃないですか――まったく、精霊たるもの料理くらい作れないでどうすると…」
ルーアン「な…っ! テーブル掛け1枚でなんでもかんでも取り出す偽ビストラーに言われたくないわよ!!」
シャオ「猫嫌いなクセに」
ルーアン「ぐ…」
どうやらアニメ版の設定は有効らしい。
シャオ「どうなんです? 何ならキリュウに『猫忍』の格好させますよ?」
なんの意味が。
ルーアン「ハナシがズレてるから戻すけど、そもそもアタシ料理なんかした事滅多に無いのよ」
シャオ「じゃぁ何でチョコなんか」
ルーアン「ブームだから」
シャオ「流行にばっか乗ってるとその先は破滅ですよ」
その後幾つか試作を作ってみるが、どうも失敗くさい。通りすがりの不幸者に半ば強制で連行し、試食させる。
男女合わせて12人食べさせたが、今のところ感想を言えた者はいない。
ルーアン「何故だ…何故出来ない…!」
シャオ「ランニングホームラン!!」
ルーアン「何ィーッ??!」
シャオ「どうせ最初から不味いんですし、いっそ陽天心掛けてみてはどうです?」
意外な言葉に虚を突かれルーアンは戸惑うが、シャオはあははーっな表情のまま続ける。
シャオ「それにルーアン姉ぇ、こっちに来てから一度も使ってないでしょう? 何事にもチャレンジジョイ!です」
高田純二のような事を言うシャオに――ルーアンは、無言で頷いた。
その光景を物陰から心配そうに見つめる太助。まるで誰かのお姉さんのようだが、身を案じるのが弟では無く自分というのが、そのお姉さんとの決定的な違いである。
太助(コロサレル…)
翔子「あー、いたいた」
太助「ッ! シーシーシーッ!」
こちらを見つけ手を振る翔子を、無音で太助は駆け寄り口元を抑える。
太助「シャオとルーアンがいるんだよ…!」
翔子「そ、そりゃ大変だな…って、そうじゃない」
太助「なんだよ、掃除は終わったぞ」
翔子「違う。愛原の事だ」
太助「…アイツの事だ、何か『燒結チョコ』とか『シノビチェンジチョコ』とか画策ってんじゃないのか?」
翔子「まぁ、方向は当たってるかな」
太助「……俺、14日休む。どっかのんびりした温泉で少し静養するわ」
翔子「現実から逃げるな。悪い知らせじゃないぞ。出雲のおにーさんによると、愛原の腕前は相当のモノらしい」
太助「…マジッスか?」
翔子「何でも、『シスター味っ子』とかいう称号を得てるとか」
太助「Σ( ̄△ ̄;;;」
…白雪か?
太助「まぁ良い。愛原だけ貰って逃げりゃいいしな」
翔子「貰う気か!?」
太助「当たり前だ。くれるんなら貰うのが常識だろう」
どんなに人から貢がれようとも、この男は微塵にも引け目を持たないのである。
仇で返さないだけマシかもしれないが、恩を受けてそのままほったらかしに出来る奴。
良く言えば心臓に剛毛がウニのように生え、悪く言えば図々しいの極地といったところか。
きっとあげても3倍どころか白い日に返す気すら無いんだろう。
太助「山野辺は誰かにあげる予定あるのか?」
翔子「無いよー。アタシ他人に物あげるの嫌いだもん」
太助「ケチな金持ちは嫌われるぞ」
翔子「うるさい。――まぁ、今のは冗談だけど、あげる予定は無いぞ」
太助「ちっ」
翔子「欲しいか?」
太助「くれるんなら」
翔子「…アタシはは見返りがある投資しかしないのよ」
やはり、ブルジョワの娘は違うなぁと、太助は心中でぶーたれた。
――…バレンティーノさんの命日の3日前。
太助は屋上に呼び出された。愛原に、である。
逆ではない。
花織「別にライダーの勝負挑みに呼んだワケじゃないですよ」
太助「挑まれても困る」
花織「西の空に明けの明星が輝くとき〜って告白でもないです」
太助「されても困る」
ライダーでもセブンでも無い愛原に、「それで…本題はなんだ?」と太助は尋ねた。
原作の彼なら、ここで「俺好っきなのはシャオやねん。せやからアンタのチョコは受け取れねぇ」とヘタレっぷりを披露するワケだが。
数瞬の間を置いて、愛原は神妙な面持ちでとんでもない言葉を吐いた。
愛原「あの、七梨先輩は手塚×リョーマ派ですか? それとも大石×菊丸派」
太助「そういうネタ振るな」
舌打ちする愛原。…その歳でそっちに目覚めるのはヤヴァいと思うぞ、と太助は801少女の未来を案じたが、男のロリレズ好きより、女のショタレズ好きの方が見た目的にも綺麗だと0.1秒で考答し、何も言わなかった。正確に言うと、女性同士はもちろん、美男子同士のBLはOKだと思っている。
太助「ところで、バレンタインの事は…」
愛原「ああ、はい。とっておきのを作ってますよ〜。チョコ派ですか?ケーキ派ですか?」
太助「両方だ」
その会話を、キリュウは聞いていた。
キリュウ「…主殿…本当にチョコ好きなのだな」
何かを決心し、二人に気付かれないよう屋上の階段を降りていった。
花織「あのですねー、いろいろ案練って考えてたんですよ。『重甲ケーキ』とか『実装ムースチョコ』とか」
太助「いやっ!練らなくてもいいから、普通でいいから!!」
「ちなみにこれがその試作品ですっ!」と、出雲に食べさせたのとは別の箱を投げた。手中に目線を落とすと、受け取った小箱には『YGMA-14』とある。
花織「『結晶ココアケーキ』です」
太助(結晶ってなんだ……まぁいいや、美味そうだし――)
シャオ「で、テイクアウトして来たんですか」
太助「ああ、その場で食べるのもなんだったしな」
夜、自宅のリビングにて、期待を込めて太助はココア色のスポンジを口に運んだ。
太助「……。」
笑顔のまま頭がぐらりと揺れて、
卒倒。
シャオ「予想通りでしたけど、ノーリアクションってのもなかなか効果ありますねぇ」
ルーアン「って言ってる場合じゃないでしょっ!!」
慌てるルーアンとキリュウに比べ、やたら冷静に何やらネタ帳にメモを取っているシャオ。ルーアンはキッチンから銀のボウルを取って来た。
まだ液体のままであるそれは、製作途中のルーアン製チョコだ。途中と言っても、後は固めるだけなのでほとんど完成していると言える。
ルーアン「さ、たー様。気付けよ」
末妹の制止を聞かず、足なんて飾りですと言わんばかりに意識不明・重態患者の口に“青紫色の液体”を流し込む。
結果は、読者さんも予想通りなので文中では書かない。
いくら不死身でも、内面の攻撃には死なないにしろ脆弱なのだ――加えて、食べ物系は、『こうかはハツグン』なのだ。
そして、14日。
学校に太助の姿はなかった。
〜つづく〜
(すーっすめ〜日の国のー空〜命、麗しく〜♪ …サクラ大戦のパクリって言うなーっ)
ハルカの勝手コメント
さて、続けて「まもって守護月天〜22Century〜」36話をお届けしました。
奇遇(?)なことに作中とぴったり時期が一致してますね、バレンタインのお話でした。
今話で花織ちゃんの驚くべき特殊能力(彼女のデフォルトからすれば十分に特殊です)が明らかになりました。
といっても結局太助くんは凶弾ならぬ凶ケーキに倒れるわけですが(笑
レイさん投稿ありがとうございました。次回もお待ちしております。
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