まもって守護月天
〜22Century〜
〜29話(今回は、初心に帰って)〜
――その日の前日深夜未明、七梨家に停電が起こった。
………。
……。
…。
シャオ「まったく、北朝鮮訪問ねぇ……Dr.マシリトみたいな顔して、純ちゃんも頑張るねぇ」
太助「いつか干されるぞ毒シャオリン」
流石に今の一言はマズイと思う。時期が時期だけに。せめて某アザラシの件とかにしてくれ。
授業中に堂々と新聞を広げているシャオリンだが、誰も…教師を含め注意しないという辺りに学級崩壊の陰りがあるが、ヘタな不良生徒とは遥かにケタ違いの圧倒的にタチの悪い水爆精霊を注意できる勇者、というより命知らずは、もはやこの学校にはいない。
それとはまったく関係無い所で、太助は己のカバンを手探り、焦燥にかられていた。
太助「…やっべぇ」
神奈(どうした、太助)
太助「忘れた、宿題」
…そして、放課。
キリュウ「え…忘れ物、か?」
太助「五時間目の数学の宿題だ…」
TAKASI「数学っつったら、田畑センセだろ――あの先生、めっちゃくちゃ怖いんだよなぁ」
キリュウ「こ、怖い…とは?」
TAKASI「具体例を言うと、人間降れ降れ坊主やられたり、ひとりクロス・ボンバー食らわされたり…」
キリュウ「いや、それって怖いと言うか…(´□`;)」
半ば体罰な気もするし、“ひとりクロス・ボンバー”はただのラリアットである。
太助「くぁ〜っ! 嫌だっ、嫌だぁ〜っ!!」
シャオ「まかせんしゃい!」
胸を張るシャオに、途端に戦慄の沈黙が彼女以外を支配する。
シャオ「アレレぇ!? その沈黙はなんすかぁ!?」
それを僕タチに言わす気か――とめいめいで太助達は視線を飛ばし合うが、最終的に全ての視線が太助に集中し、観念して彼は口を開いた。
太助「…た、確かに原作ではシャオだけど――いいよ、無理だろうし」
シャオ「いいえっ! 今回の私は原作に忠実な精霊なんです! だから星神だって使います!」
言ってシャオはスカートのポケットから謎の金属で出来た八角形のアレを取り出す。
太助「うわすっげぇ久々の支天輪」
翔子「最近使う機会無かったもんなぁ」
機会は十分あったのだろうが、彼女は全部力押しで解決している――言わば、鍵はあるのにドアを蹴破って開けてるようなものだ。ただ、シャオの観点では鍵で開けるのも蹴破るのも同じようなものらしいが。
太助「…ってか、離珠は以前出雲に取られたんじゃなかったっけか?」
翔子「そだそだ。んで、虎賁は…ロボピッチャだろ――まともなの軒轅だけじゃん」
否、軒轅もまともじゃ無かった気がすると太助が呟くと、シャオは「あははーっ、大丈夫ッスよコタロー君!」とどっかの落ちこぼれ天使のような口調で言う。てかコタローって誰だよ。
シャオ「確かに、『マーク1』は欠陥が多かったです。不評が起こるのも当然です。ゼンマイだったし、ブリキだったし」
翔子(『マーク1』って…Σ(´□`;;)
太助(…やっぱしありゃ(壊月天3話参照)メカ…)
シャオ「ですが! 失敗を乗り越えてこそ成功はあるものです! 『俺の屍を超えてゆけ』と昔の偉人も言ってました…――今度のヤツは、完璧です! ――見よ、現代科学の集大成!!」
古代精霊そのものが何言うかなぁ、と太助は内心呟くが口には出さず、支天輪を構えるシャオの「来々!『軒轅』!」の言葉に視線を向ける。
………。
太助&翔子&TAKASI&キリュウ((((な…何ィ…!?))))
なるほど、確かにシルエットは軒轅…に近いかもしれない。小柄な竜のフォルムはそのままだが、明かに角張っている。そして、皮膚はメタリックコーティングされ硬質感を漂わせ、多数のブロックで構成された腰部を含む全ての関節は、機械特有のアクチュエイター音を鳴らしている。
そしてなにより、頭部が明かに原作のオリジナルとは違っていた。胴体と同じくメタリックな頭部に、音声センサー、そして黒いバイザーの奥に煌く視覚センサー――言うなれば…というより間違い無くその姿は『AIBO』であった。
シャオ「はい! これが『軒轅ダブルツインセカンドマーク2』ですっ☆」
TAKASI(2がいっぱい!?)
シャオ「ちなみに動力は『マーク1』よりバージョンアップして、電気なんですよー!」
太助(――…電気だと?)
彼の脳裏に、昨晩のある出来事が思い出された。更にシャオが一言。
シャオ「しかも充電したばっかだから、パワー満タンでっす☆」
太助「待て――てことは、アレか?ヲィ…――昨晩の停電と、今朝電気メーターがぶっ壊れてたのはお前のせいか?」
シャオ「私のせいじゃありません、軒轅のせいです」
太助「イコールお前のせいだっつの」
どう見てもコレ(軒轅)は星神ではなく家電だろ。家電に人権があるとも思えねぇ(ある意味問題発言)。
シャオ「それじゃ、ちゃっちゃと取ってらっしゃい、軒轅!」
ルーアン「そうはさせるかぁーっ!」
ばんっ、とドアが乱暴に開いたかと思うと、ルーアン先生が意気込んで入って来る。来るや否や、いきなり今さっき軒轅が発進した窓の外に向かい、
ルーアン「コール・バトルマシン!!」
太助&翔子&TAKASI&キリュウ「「「「何ィッ!?」」」
メカチックな電子手帳に向け、謎の発進命令を掛ける先生。
太助「なんでいきなり前振りも無く!?」
ルーアン「守護月天の邪魔をするのが慶幸日天の勤め!」
翔子「志(こころざし)低いなぁ…――ま、確かに原作でもそうだがどう考えても主に対しては無意味この上無しだろ」
返す言葉も無いのか、ルーアン先生は無言で眼前に現われたバトルマシン――以前出撃した重機メカである。右から、クレーン車、ショベルカー、ダンプカー。そして、初顔な新メカ…削岩ドリル車。
太助「やべぇ…ますますアレじゃ無ぇか――」
すぐさま合体したその姿――削岩ドリル車が(なぜか)飛行パーツの役割を果たし、今回の『スーパーハカイオーX』は、軒轅に対抗できるよう、飛べるみたいである。
ルーアン「フッ…今日の私は原作に忠実な精霊なのよ! さぁ行きなさい、スーパーハカイオーX』!!」
低い唸り声を上げて、スーパーハカイオーXは七梨家に向かい飛んで行った。
シャオ「甘いですね、ルーアン姉――私の軒轅が、そう容易く叩けるとでも!?」
何時の間にかモニターを取り出し観戦中のシャオ。どうやら軒轅視点の画面らしいが、
太助「…その手に持ってるコントローラーは何だ」
シャオ「操縦桿」
太助「手動かよ。しかもファミコンのパッドかぃ」
高橋名人のごとき指裁きで軒轅を操作する彼女。ルーアンはその光景を軽く笑って、同じようにモニターを並べる――スーパーハカイオーX視点のだろう。
ルーアン「ハン、随分アナログな操縦桿ね、シャオリン?」
翔子「センセの方も言えた義理じゃ無いでしょ、PCエンジンのパッドの分際で」
どちらも、十字キーとスタート&セレクトボタン、そしてABボタン(PCエンジンは連射もあるが)のみ――どういう操縦機構になってるってのか。
シャオ「移動は十字キーのみですが」
と言ってる間に、軒轅がスーパーキカイオーX(以下・SキカイオーX)に追いつかれる――振り下ろされる巨大な拳を、身軽な動きで回避する軒轅。そのお陰で拳は舗装された路面を砕き、両脇の民家に被害を与える。
シャオ「あはっ、そんな攻撃、軒轅に当たるものですか」
ルーアン「だからといって、回避し続けられると!?」
更に繰り出されるパンチ――それらを竜の柔軟な身体を撓らせ避けつつ、SキカイオーXの背後に回り込む。
ルーアン「背中を取られた!?」
シャオ「ドラグレーザー発射!」
太助&翔子&TAKASI&キリュウ「「「「嘘っ!?」」」」
軒轅の口が開き、閃光が走る。SハカイオーXの背装甲は焼かれ貫通――SハカイオーXはバランスを崩し、民家数軒を砕いて墜落する。
ルーアン「損傷率40%…まだまだっ!」
太助「てゆーか!今のビーム何!?」
シャオ「必殺兵装です。もっとも消費エネルギーから撃てるのは1発だけですが」
太助「外せっつの」
異常とも言える電力消費量の大半は今のビームと見た。
――そんなこんなで、3時間後。
――…戦いは、続いていた。
ルーアン「ハカイオーチェストエッジ!!」
灼熱の業火が名古屋のテレビ塔を焼く。
シャオ「ドラグミサイル!!」
数十のマイクロロケット弾がホーミングしながら奈良の大仏を砕く。
ルーアン「ハカイオーブレイクガスト!!」
スパークを帯びた粒子砲が大阪の食い倒れ人形(他、商店街数百棟)を消滅させる。
シャオ「ドラグバーンフレアーっ!!」
紅のオーラに包まれた軒轅が突進し、広島の原爆ドームを粉砕、塵とする。
…もう、『宿題を取りに行く事』を完璧に忘れているゲーマー2人。
キリュウ「空中戦と言うか…――日本の各名所を次々と破壊しているようにしか見え――あぁ、熊本城が(汗)」
既に九州上空から、東シナ海海上まで到達した二機――そろそろ止めないと、あと数分で国境線を出てしまうだろう。
シャオ「ちぃ、大きいくせによく動く!」
ルーアン「えぇい、チョコマカチョコマカ――ハエが!」
目が宇宙世紀の人になっているゲーマー達をよそに、溜息をつく太助。
翔子「そいや、気になってたんだけどよ――お前空飛べるんだし、自分で取って来る方が速いんじゃ?」
太助「…ああ、確かにそうだな」
翔子「? じゃぁ、なんで?」
太助は、諦めたように翔子に耳打ちした。
一方その頃火の国熊本。
宮内出雲は、十数分前に遥か高空に戦闘を繰り広げ通過した機動兵器の姿を察知し、てからし蓮根をまるかじりながら追っていた。
…飛んで。
出雲「ハッハッハァーッ!! このグレートスピリッツを手に入れた陰陽師・出雲が空を飛べない筈が無いぃぃ〜!!」
誰に叫んでんだ。しかもグレートスピリッツを手に入れたという裏ネタは無い。
だが実際彼は飛んでいる。
コンコルドにも引けを取らないような速度で追走していると、ものの5分で2機の戦闘空域に突入、有視界に捕らえた。
そんな彼の姿を、シャオとルーアンはカメラアイを介してモニターで目撃した。そして戦慄した。
彼の飛行手段――それは、陰陽術でも武空術でも無かった。ただ、右足が落ちる前に左足を、左足が落ちる前に右足を――その繰り返しによるものだ。
物理法則のへったくれも無い。ついでに見た目も凄く恰好悪い。
ギャグ漫画の渦巻きな走り方と言えば判りやすいだろう。
シャオ「ええぃ…この非常識者がっ」
キリュウ(アナタが言うかなぁ…)
ルーアン「タイマンの決闘を…邪魔をするか!」
出雲「ちょぁぁぁぁーっ!!」
SハカイオーXの振るわれた巨大な拳を回避し、出雲はひらりと飛び乗りそこから一気に肩あたりまで駆け上がる。そして、人の身長より一回り大きいサイズの頭部を、思いっきり殴りつけた。
ルーアン「ぬぅ!!??」
轟音。出雲の拳打は鋼鉄の頬を砕き、SハカイオーXの頭を大きくへし砕く。
ルーアン「えぇい、モニターが死ぬ!?」
目を潰されたSハカイオーXに、生還の余地は無かった。すかさず軒轅の体内に内臓された全ての装備を発射し、そしてその全てがSハカイオーXに着弾し、巨大ロボットは呆気無く爆砕した。
気のせいか、出雲も一緒に爆発に巻き込まれたような気がするが、まぁ太助の次に死に遠い彼だから問題無いだろう。
シャオ「っしゃぁ!! 十年早いんだよっ!!!(ガッツポーズ)」
ルーアン「くっ…――…何故だ…何故勝てない!」
キリュウ(宮内殿が乱入してきたのが要因だと思うが)
先のもそうだが、口に出すと(リアルに)殺されるので、今回のツッコミは心内だけという控えめなキリュウしゃん。
その直後、五時間目の始業チャイムが鳴り響いた。
シャオ「…あれ、太助様――…私、何するんでしたっけ」
太助「……もういいっつの」
結局、七梨太助は数学の宿題を忘れた事により、放課後まで人間降れ降れ坊主を――つまり、窓際に逆さ吊りにされるハメとなった。
キリュウ「しかし、家までそうそう距離も無いのだし、主殿自身が取りに行けばよかったんじゃなかったのか?」
天地正反対の太助は、半眼で腕を組んだ。
太助「…いやな。山野辺にも言ったんだが、俺――」
“宿題持ってくるの忘れたんじゃなくて”
“宿題やるのを忘れたんだ”
(゚Д゚;)ダメジャン
〜つづく〜
(今晩はカレーです。だからカレーネタは抜きです――もしやってたら、ちよちゃん登場でしたが)
ハルカの勝手コメント
はい、原作カレーネタのレイさん作「まもって守護月天〜22Century〜」の29話目をお届けしました。
個人的には出雲兄さんの変節?がきになるところ。とりあえず今回で晴れて非人間認定されました(笑
シャオと汝昴の二方は、もはや突っ込む方が無粋というもの…なので今回のマイベスト(ハルカ脳内)は田畑先生に決定。
人間降れ降れ坊主は死人が出ます(^^;
(しかし今回初心に帰ったって…どこが?(オイ)
レイさん、どうも投稿ありがとうございました。次回もお待ちしております。