まもって守護月天

〜22Century〜

 

 

〜21話(今回単なる『AIR』の外道SSだよぉ(汗))〜

 

 

 ――前回のあらすじ。

 母さん、お元気ですか。僕は今、月の世界・ラビル――

太「って違うぁっ!!

 危ねぇ…。――まぁ月の内部じゃないが、俺は今、異世界にいる…と思う。

 とりあえず、オーラロード…いや、亜空間を通ったんだから、その筈だろう。

 ――しかし、この景色を見る限り、季節こそ夏だが、どう考えても俺の住む地球の、日本の、海に面した田舎町だ。

 

 そして、俺の目の前には金髪ポニーテールのちょっとおっちょこちょいそうな少女がきょとんとこちらを見つめていた。

 

太「…うぉ、太助ちんびっくし」

少女「が、がお…それ私のセリフ」

 …あ、なんかこの娘俺知ってるかも。

 ともかく、俺はこの少女に支天輪の事を知ってるか聞いてみる。

太「ちょっと悪いが…――この辺りで金属だか鉱石だかよく判んない材質で出来た八角形の輪っか、見なかった?」

少女「うーん、わかんないな…」

太「そっか――ならいいや、手間取らせたな」

 そう言って俺は少女をすり抜け、『こっち矢』の指した方角に進んだ。後ろから少女の視線を感じるが、まぁ気にしない気にしない…。

 …んん?

 あのあの『こっち矢』さん、俺の真後ろ指してますけど、どしたのん? さっきまで俺から言って正面を指してたってのに。

太(まさか――)

 咄嗟に俺は少女の周りを犬のように素早く回る。――やはり…『こっち矢』は少女を指して俺の回転に合わせてくるくる回っている。

太「貴様かぁぁぁぁっ!?」

少女「え?え?」

 

 

 

 ―…一応、以降は『AIR』のネタバレを多々大に含みます。『AIRやってみたいなぁー』と思ってる方は、あしからずだよ―

 

 …結局、行く当も無く、『こっち矢』もこの娘を指している事だし、俺はこの神尾観鈴という少女の家に行く事となった。

観鈴(以下:観)「にはは。太助ちん、私のお家に遊びに来るの」

太「んー…遊びにっつーか…行く当て無ぇもんな…」

 なんてったって異世界。こんな所に知り合いがいる方がおかしいよなぁ…。

観「そしたら、二人はお友達」

太「…?」

 ――友達、か…。なんかすげぇ久々に聞いたセリフ。

太「…そーだよなぁ…俺の友達って、萌え担当精霊(←キリュウ)とかたいやき受け系娘(←翔子)とか最凶最悪真祖の姫(←シャオ)とかデコッパチおばん(←ルーアン)とか変態陰陽師(←出雲)とかだもんなぁ(泣)」

 TAKASIと乎一郎はどーした?

 涙目で遠い目をする俺の後ろで、観鈴は「な…なんか複雑そーだね…」と頬に幾筋の汗をたらした。

太「いや…複雑っつーか単純明快っつーか…」

 ――それらを含めて、太助は改めて観鈴を見た。

 どうもレミィっぽいが、全体的に見ても普通だ。…どっからどう見てもノーマル。

太「いいじゃねーかっ! 友達? オゥケィオゥケィ!! むしろ俺が望みたいくらいデース!!」

 久々にマトモな人間を見た俺は、親指を立てて某アメリカ人風で彼女に答えた。

太「……って、おぃ観鈴ちーん…顔伏せてガッツポーズ取って…どったん?」

観「はぁううぅ〜〜…友達イナイ歴16年…遂に私にも友達が…」

太「……」

 …ちょっと、普通じゃないかもしんない。

観「それじゃっ、友達になった記念にジュースで乾杯しよっ」

 そばにあった商店の自販機に観鈴は駆け出し、そのまま小銭を投入した。

太「ああ、俺は差し詰めいちご――」

 “ぽちっ”“がっきょん”

太「――…牛乳が良かったな」

観「はいっ、お好きな方をどうぞっ」

 紙パックのジュースを両手に一つづつ俺に差し出す。お好きな方、と言っても両方とも同じだが。

太「……これか…」

 来ると思ったが、やはりこれか。…どろり濃厚のヤツか。

 まぁこの少女がシャオあたりだったら手に取るや否や気象衛星の軌道に乗せる勢いで天高く投げるものだが、流石に見ず知らず――いや、友達に、その仕打ちは酷いだろう。俺は観念して紙パックに付属のストローを突き刺した。

 …この商品考えた人は、売る気があったんだろうか。バーチャル○ーイみたく解雇されたりとかなってそうだ。

 観念して、俺は一思いにストローを吸い込んだ。

 ――そして、やはり地面に叩きつけた。

 ごめん観鈴ちん。

 

 

 ………。

 ……。

 …。

キ「…今どうしてるだろうか、主殿」

シャ「どうでしょう? 宇宙世紀の世界か、はたまた輪廻の蛇に囲まれた平面世界か…」

 まぁ太助の事だから、絶対に死ぬ事は無いだろうが。やはり未知の世界だけあって、心配だとは思うのだが。

キ「…シャオ姉、楽しんでない?」

シャ「ええ、すっごく」

 笑顔で肯定すると、シャオは神妙な面持ちで瞼を閉じた。

キ「……シャオ姉? 何を…」

シャ「…忘れてました――太助様に、今回の指令を」

キ「指令!? というかテレパシー!?」

シャ「いえ、電波

 よく見ると、触覚から妙な電磁波がみょみょ出てる。

キ(あの触覚は破壊光線以外にもアンテナにもなるのか…)

 またまた姉の新たな一面を垣間見たキリュウは、ますます太助の安否が気がかりになった。

 

 

 

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 

 観鈴の家は、立て直す前のサザエさん家みたいな2階建ての家だった。

 縁側もあるし、ここでスイカ食ったり囲碁やったりしたら風情あるだろうなぁ。

太「――…ちょっと待ってくれ」

 ふと居間の壁に掛けられていたカレンダーに目を向ける。

『2000年、7月』

観「? どうしたの?」

太「…観鈴ちん、今日は何日だ?」

観「えーっと…」

 カレンダーを確認して、うんと頷き、

観「16日だよ。日曜日だもん」

太「そうか…――…2000年の7月16日、か」

 ――2年前の過去だが、綿密に言うと、原作では3年後の未来である。…ちょっちややこしいよな。

太「まさかと思うが、もうすぐ夏休み?」

観「うん、そうだよ」

 ――驚いた。やはり俺の世界と全く同じなんだな…。

太「…にしても、なんだな。夏休み直前ってのは良い雰囲気があるよなぁ、羨ましい」

 原作だとまだ5月頃――…夏はまだ先。

観「…でも、私はあんまり好きじゃないな…」

 突然アンニュイな表情の観鈴ちん。…うぉ?

 ――…そういや、さっき友達イナイ歴16年とか言ってたな。

観「――でも、今年の夏は違うよ。すっごく楽しみ」

太「え…何ででしか?(離珠風)」

観「だって太助ちんがいるもん」

 待て。ちょっと待て。俺は夏休みまでいる気は無ぇぞ!?

 ――…と、口に出して言えないのが男として悲しい。これじゃぁ原作の奴と同じじゃねぇか。

観「ね、太助ちん。トランプしない?」

太「…トランプ? ああ良いぞ、手裏剣風にキュウリとか切るやつな」

観「そ…そういうのじゃ無くてね…」

 うん、わかってるけど。俺も一度アレやってみたいなってちょっと思ったんよ、ロウソクの火消したりとか。

 

 観鈴が自室にトランプを取りに行き、太助は一人居間に取り残された。

太「しかし、西暦2000年にしては古ぼけてるよな――…なんとなく、時の流れがゆったりしてるっつーか――…嫌いじゃないけどね」

 瞬間、ニュータイプの如し感覚が脳裏にピキーンと受信した。

太(――…っ!? これは…シャオか!?)

 

 ――アナタに…力を…。

 

“ぷちっ”(←受信強制切断)

太「サテライトシステムなんか無ぇだろがぁぁーっ!!

 ――それは冗談として、指令です。…太助様、支天輪の捜索、梃子摺ってるようですね?

太(って見てたのか!?)(←心のツッコミ)

 ――にははーっ、シャオは何でも知ってますー。

 …その笑い方はシャレになんねぇ。――これじゃまるでお釈迦様と孫悟空じゃねぇか。

太(まぁな……キリュウの『こっち矢』の先には支天輪無いみたいだし)

 ――…太助様。昔からこういう言葉があります。

太(…あぁ?)

 ――『ドラクエはおつかいゲー』、と。

太「…っ!? うにゃっ!?」

 ――つまり、そういう事かぃ。イベント攻略のカギか観鈴ちんはっ!!

 

観「…どーしたの? 太助ちん」

太「……いや」(汗)

 ――…その後数時間、俺と観鈴ちんは延々にババ抜きを続けた。

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 …時刻は7時を過ぎた。

太「……」

観「あ☆ 揃ったぁ」

 そりゃ二人なんだから必ず揃うんだって。

 ちなみに勝敗は139勝0敗。

 …どっちがどっちかは、想像にお任せしたい。

太「…なぁ」

観「にはは、今度こそ連敗脱出だもん――…? なぁに?」

太「…そろそろポーカーとかスピードとかにしたいんだが」

 流石にこのタイマンは辛い。

 しかも、この娘の辞書にはポーカーフェイスという言葉が無いらしく、それだけに余計に辛い。…手加減する気も無いが。

観「う…うん、そう、だ…ね……」

太「ああ、頼む。――……どうした?」

観「にはは…は…」

 

 必死に抗うような笑いとは裏腹に、彼女の涙がぽろぽろと頬を流れ落ちる。

太「…み――観鈴ちん…?」

観「…えぐ…っ…あぐぅっ……」

 

 

 ――俺はただ、呆然と泣き崩れる彼女を見守るしかなかった。

 

 ――ただただ、目の前で泣いてる友達に、何も出来ないのが、悔しくて…。

 

 

 

 …5時間後。

 

 

 

観「……あぅ…ひっく」

太「落ち着いたかにゃー?」

 肩をぽんと叩くと、反射的に彼女が顔を上げる。何故に猫語かは、…単なるマイブームだ。

観「……あ…う、うん」

太「そか、んなら良かった」

 とりあえず、散らばったトランプを拾う。いや、それより飯だよな――よく考えりゃ、俺実際昼飯すら食ってないもんな…。

観「あのね、私、ヘンな子だから。誰かと友達になれそうになると、今みたいに泣き出しちゃうの――…小さい頃から…そうだったの」

太「…ふむ、癇癪持ちか」

観「にはは…あんまり驚かないんだね」

太「――そりゃぁ…」

 だって、俺自身不死身な子だし。

 真っ二つにされようと消し炭になろうと速攻で蘇生するってのはヘンな子の次元超越してるっしょ。

太「…俺から見たら、観鈴ちんなんか物凄く普通だぜ?」

 やぁもう、慣れって恐いわ。

観「…太助ちん…」

 ――…ん? なんか遥か遠方から16気筒のエンジン音が…?

太「――なんか…近付いてこないか?」

観「あ、お母さんが帰ってきたんだ」

太「あ、そうか。お母さ――」

 刹那、

“どんがらぐわっしゃんべきばぎごぎぐしゃぁぁっ!!”

 

 ナナハンの大型バイクが居間の壁を破壊し特攻してきて――俺は壁と共に、撥ねられ、轢かれ、埋もれた。

晴子(以下:晴)「ウチの大事な観鈴を泣かせたんはどこのどいつじゃぁぁっ!!!

観「…お母さんの下の瓦礫のあたりだよ…」

晴「お、観鈴。ただいまぁ」

観「うん、おかえりなさい…」

 いまだ観鈴の視線は瓦礫の下辺りを汗を垂らしながら眺めている。

晴「ん、誰かいるんか?――…だったら悪い事したなぁ。観鈴、線香持ってきぃ。せめて供養くらいしとかんと、呪われたら堪らん」

太「立派に生きとるわぁぁぁっ!!

 

晴「いんやー、アンタ頑丈やなぁ。大抵あれで生きてたモンはおらんってのに」

 なんか前科がある言い方だなヲィ。

 関西弁の酒乱のその女性は、観鈴の母らしいが、髪の色も赤だし、性格も違うし(反面教師かもしれんが)、何より16歳の娘がいる割には若過ぎ。

太(…いや、それは樋上いたる氏のせいか)

 秋子さんだって似たようなもんだしな。

 元から酔ってた上に更に晩酌をする晴子に付き合いながら、俺はコップの日本酒を一気に飲み干した。

 ちなみに、観鈴ちんは既に就寝。

晴「アンタこの辺では見ん顔やけど、旅のモンか?」

太「…まぁ、そーゆー所」

晴「そか。――にしても、アンタ観鈴にえらく懐かれとったなー。癇癪とか、大変やったろ?」

太「ううん? そんな事無いぞ――俺としては、久々に普通の女の子と友達になれて、小さな感動が…」

晴「…アンタの周囲にはどういうんがいるんや…」

太「話せば原稿用紙400枚は越えると思う」

 とは言っても、壊月天1話から20話足しても200枚も行かないかもしんない。

 

晴「あの子は、昔っからちょっとヘンな所があってなぁ…」

 既に床には空の一升瓶が2本転がっている。完璧に酔った彼女は、独り言のように観鈴の事を語り始めた。

晴「…あの癇癪は、薬とか現在の医学ではあのB・Jでも直せんらしいのや」

太「診察受けたんかぃ」

晴「(無視)なんや観鈴の話やと、前世の記憶がなんとか関係してる〜とか言うらしいんや。よく夢で見るんやってん…」

太「前世…そして夢、ね…」

 ――そういや、シャオから借りた秘密道具に、丁度いいのがあった筈だが…。

太「あった」

“ぺかぺかん♪”

太「ユ〜メ〜グ〜ラ〜ス〜」

 めんどいしただ一人の観客が泥酔したまま寝てるし、説明は省略。

 俺はそのメガネを装着して二階に駆け上がった。

 

 観鈴ちんの部屋にこっそり侵入、そのまま、彼女の夢をそっと覗いて見る――

 

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 …夢の中では、『SUMMER編』がそのまま流れていた。

 いや、もう、なんとも事情の判り易い夢だろうか…。

 ――この世界には、過去に星の記憶を受け継ぐ『翼人』が存在していたらしい。

 ――しかし平安時代の頃、全滅したらしく、最後の一人の翼人の魂が人間に転生したらしいが、人間の身体に翼人の魂は大きすぎるらしく、死んでしまうらしい。

 ――その上、孤独になる呪いまで受けちゃったとか。

 

 ――…って事らしい(上は伏字になってるのよ)。

太「って事は観鈴ちんは翼人から呪い殺される運命って事じゃねぇか」

 そういうのって許されると思うか?

太「否! 俺の目の黒いウチは、そういう事はさせねぇ! 必殺・精神感応『共鳴』!

 “キィィィン!”という音と共に、俺は観鈴ちんの夢の中に介入した。

 

 

 

 

太「…なんか今回の俺っていろんな所飛び回るなぁ…」

 地が見えない――遥か高き空の上、俺は漂っていた。

太「……これが…観鈴ちんの夢の中、か…」

 目を閉じ、心眼で彼女の心を感じる――む、10時の方角1200メートル先に生命反応!

 夢の中だから何でも出来ると思い、俺は舞空術で生命反応のある場所に急行した。

 

 そこには、バーム星人の如く天使の翼を生やした着物の少女がいた。俺は躊躇う事無く――

太「貴様かぁっ!! この悪霊はっ!!!」(足蹴っ)

神奈(以下:神)「ぐはっ…!? 悪霊とは何じゃ!! 見ず知らずの者に言われる筋合いは無いぞ!? その上蹴るか!?」

 そりゃ確かに。だが、俺は『SUMMER編』で予備知識はバッチシだ!!!

太「翼人だが何だか知らんが、人を呪い殺す事が正義だとは俺は認めん!! 俺が正義だ!!」

神「な…なんというマイペースな男…――わらわとて、好きでこのような事をしているのではないわっ!」(汗)

 

 ――…とりあえず、翼人・神奈備命(かんなびのみこと)の言い分も聞いてみる。

太「ふーん、…大体の事情はわかった」

神「そうか…(ほっ)」

太「やはり成仏せぇぇっ!!」

神「ああぁっ!?全然判っておらぬ!?――くっ…な――ならば、勝負をせいっ!」

太「!? ほぅ…勝負か…いいだろう。リアルファイトでは負ける気はしねぇぞ」

 シャオやルーアンと言った範疇外の奴らなら敵わないが、翼人くらいならさっきのを見る限りなんとかなりそうだ。

神「待て。誰が格闘戦と言った」

太「…違うのか?」

神「わらわはそのような無粋な真似はせぬ…」

 そう言って差し出したのは、3つの手の平サイズの小豆の入った布袋だった。

太「……お手玉?」

神「そう、お手玉。3つ玉で、長く続けられた方が勝ちじゃ」

太「っしゃぁ!! やぁぁってやるぜ!!」

 

 ――とは言え、俺お手玉なんかやった事無いわけでして――

 幾ら意気込んだどころで、所詮は技術。

 俺はたった10秒で落としてしまったワケで…

 

太「よく考えりゃぁ1000年近くやってる奴に敵う訳ねぇやん!!

 いくら不器用な者でも、1000年も練習すりゃぁ大抵上手くなるもんだ。

神「ハハハ、わらわの勝ちじゃ。という事で、そなたの魂にいさせて貰う」

太「何ぃ!? 今度は俺を憑き殺す気か!?」

神「だから殺す気は無いと言うのに…――念の為に言うが、この娘は既に限界じゃ。このままわらわが居続ければ、恐らく8月の中旬頃に死んでしまうだろう」

太「…なかなかひでぇ話だな」

神「まぁの。――そこで、じゃ。その前にそなたの精神に憑けば、とりあえずこの娘は助かる」

太「その代わり俺が死ぬんじゃねぇかっ!!!

 ――……ちょっと待てよ? 俺が、死ぬ?

 少し考えてみる。普通の人間なら溢れてしまう魂も、不死身の肉体&精神なら、もしかして――

 …その可能性に掛けてみる事にし、俺はその提案を受ける事にした。

 

 

 ………。

 ……。

 …。

 

太「それじゃーな、観鈴ちん」

観「うん…。ちょっと寂しいけどね」

 翌日俺は神尾家を去る事にした。『こっち矢』を見ると、まったく別の方角を指してるし、もうここに留まる理由が無いからだ。

 …変なオマケもついてきたけど。

太「いや…それは大丈夫だろ。あの暴走かーちゃんいるし…」

 晴子は仕事の関係上、昼までぐっすりなんだとか。

観「うん…でもお母さん、私のお母さんじゃ無いから」

 ――…ああ、やっぱりな。

 神奈の魂を抜き取った後、俺は目が覚めていたし酔い潰れていた晴子に向け、暇つぶしに『ホンネ吸い出しポンプ』を使用したのだ(←プライバシーとか完璧無視)。

 それで、大方の事情を知った。

 …少し、あそこまで思われてる観鈴ちんが羨ましいです。

太「――それに、もうお前は一人じゃ無いしな」

 ――呪いと言う名の枷は消え、少女は大空に解き放たれる――

太「…俺の世界と同じっつーなら…明日の午前頃、観鈴ちんと俺が最初に逢った場所に行くと、緑川さんな声の黒い男がいる筈だ」

観「…黒い男の人???」

太「ああ。確か、翼人探してるらしい」

 つーか、元凶はもう無いから彼もカラスになる事はないだろ、うん。

 ――うーん、ハッピーエンド。

観「そういえば…私、身体が最近重くて、背中が痛く感じてたんだけど…」

 …。その言葉に、俺は心中で問い掛けた。

太(…それが『呪い』の影響かぃ)

神(うむ。呪いの初期段階だな。中期になると歩けなくなり、末期になると記憶を無くすのだ)

 何で自慢気やねん。

太(貴様ぁ…威張って言う事かっ!この悪霊めがっ!!)

観「?」

 肩の上の神奈を睨む俺を、観鈴は不思議そうに見ている。

 …そうそう。神奈の事だが、俺の目論見通り、不死身の身体なら翼人の魂も十分収まってくれたようだ。――ただ、観鈴ちんのように無意識下で住まうのでは無く、俺の心の中に復活――共生状態になってしまったらしい。…いい迷惑やぞ。

 当然、心の中で復活したので他の人には見えない。

 ついでに何故かミ・フェラリオサイズ。

太「ま、ともかく――目指すは友達百人だな。んじゃ、な」

観「にははっ……うん、ばいばい」

 

 ――彼女の声が物寂しそうな気がしたが、心配無い。

 ――最後とは言わず、これからは幸せな記憶がずっと続く筈。

 ――前世の記憶などという鎖は、もう無いのだから。

 

 

 

 

 

 

神(…むぅ? 太助、妙な電波を受信したぞ)

太(何?電波?)

 ――どうも、『お口の恋人』こと守護月天シャオリンです。

 お前は『ロ●テ』か。

太「よぉシャオ。観鈴ちんシナリオはクリアしたぞ」

 …原作とはまるっきり違う状態だがな。

 ――ええ、ご苦労様。――アナタの浮気っぷり、拝見させて頂きました。

太「う…浮気ってどういう意味だっ!?」

 ――キリュウと翔子さんに対して。

太「……俺は二股すらしてる覚えも無ぇけどな」

神(…ふっ…二股とは――不埒者めっ!)

太「お前出てくんなっ!話がややこしくなる!!」

 ――この調子で、残り二人のシナリオも…

太「無茶言えぇっ!!」

 ――ですが、神社の娘の呪いくらいなら神奈嬢と同じ容量で、

太「いくらなんでも俺の魂のキャパシティが無くなるっ!!」

 ――あぁん、いけずぅ。

太「そういう問題じゃ無ぇっ!!」

 

 

 注:――本来なら、更に美凪編・佳乃編もやろうかと思いましたが、ページの都合とこの作品が『壊月天』である事により、抜粋します。

 

太「つーか、どこにあるんだよ…支天輪」

 いくら探しても、見当たらない――『こっち矢』はさっきから至る方向をぐるぐる指していい加減だし…。

 そういや、空気クレヨンだけ使ってなかったよな。

太(どうせ暇だしな…)

 ポケットから青色のそれを取り出す。さて、何を描こうか――刹那――車のエンジン音が次第に近付いて来て――

太「チェキラッ!!?」(吹っ飛び吐血)

 クレヨンに気を取られて回避し損ねたか――絶対スピード違反だろうってくらいのトラックに、俺は真上に錐揉みしながら吹っ飛ばされた。

 吹っ飛ばされる最中、ぐるぐると回転する視界の中で俺はトラックのアンテナに、まるで輪投げの様に引っ掛かった支天輪が垣間見えた――。

太「最後の最後で原作通りのオチかぁぁっ!! てか轢き逃げっ!?」

 俺が身を起こした時には既にトラック(←やっぱり長距離トラック)は再び加速して、その後姿は小さくなっていた。

太「くそっ…! 轢き逃げたぁふてぇ了見! 支天輪もある事だし、車潰して運転手ぶっ殺す!

神(な…っ、それはちょっと短絡的では!?)

太「否! ドラまたリナも言ってただろ! 『悪人に人権は無い』ってな!!」

神(む、確かにな――悪人にロクな奴はおらん)

太「つーかロクでも無い奴が悪人なんだろうけどな」

神(一理あろう。では逃がすなっ!(熱血))

太「判ってらぁっ!!」

 ――とは言っても、もはや車の姿は見えなくなっている。

太「ちっ…ヤクい。はよ追わねぇとっ!」

神(――ふむ。よし太助。アレをやるぞ)

太「…っ!?」

 一瞬何か判らなかったが、察した。俺は頷き、「はいっ!師匠!」(謎)

太「神奈備命、オーバーソウルッ!!

 右腕を振りかざして叫んだ途端、全身が輝き出し――…

 

 

 

 ――…言ってみるもんだ。

 全身に力が溢れるのが実感できる。身体が軽い。

太「はは…ははははっ!! このオーバーソウル凄いよ!! さすがターンAのお兄さん!!!

 後半のセリフは自分自身よく判らなかったが、背中を見ると、天使のような翼が羽を広げていた。

太「お、俺もバーム星人に」

神(戯け者。オーバソウルの具現化だ――これで飛んで追うがいい。走るより数段マシだろう)

太「ありがてぇ! それじゃ、グレート太助ウイング、やぁぁぁってやるぜっ!!」

 

 

 

 数分後、山道に差し掛かった青森行きの長距離トラックは太助のスーパー竜牙剣の一閃により真っ二つにされ、中の運転手もブーメランフックでKOされるのだった。

 炎上する車の残骸の中で、G太助Wは引っ掛かっていた支天輪を拾い上げた。晴れ渡る空に、天高く支天輪を掲げ――

太「っしゃぁ! 支天輪(&短天扇)、ぴっぴかちゅう!!

 

 

 

 ――丁度その頃、対向車線を一台のバスが通り過ぎた。

 

 ――…海に近いちっぽけな町。一人の青年が、バスから降り立った。

 ――青年は旅の途中だった。こんな小さな町に留まる気はなかった。

 ――路銀を稼いだら、すぐにでももっと大きな街に移るつもりだった。

 ――旅の道連れは、母親が遺したちっぽけな人形。彼は手を触れずに、その人形を動かすことができた。

 ――母親から受け継いだ、『法術』よ呼ばれる力。

 ――彼はそれを見せ物にして、これまで旅を続けてきた。

 ――早速彼は、町の子供たちを相手に人形芸を披露する。

 ――しかし、さっぱり受けない。いつもとはどこか勝手が違う。

 ――ゆったりと流れるこの町の時間に、青年は戸惑う。

 ――青く広がる空の下で、夏は終わりなく続くとさえ思えた。そして、この海辺の町で、青年は、一人の少女に出会った――

 

 

 

 

 

 

 …後書き…

 今回だけは、ちょっと毛色が違います。その理由は、つい先日友人と『AIR』について語った時、『やっぱりこれって救われねぇだろ!!』という事に気付き、だったら無茶苦茶だとしても絶対ハッピーエンドになるようにしてやろう、という事で太助ちんに頑張って貰いました。

 ハッキリ言って、『壊月天』として見れば反則どころか最低作です。

 かと言って、『AIR』としても作品的に成り立ってない…どっちつかずやね。

 ――…謝罪を。次回より、再び『壊月天』はいつもの如く走り始めます。

 次回も、シャオの必殺技が、太助の拳が、キリュウの萌えが光ります(謎)

 

 

〜つづく〜

(本当は、あと二人分も書きたかったんやけどね――…あー、いや、ごめん)


ハルカの勝手コメント

 20話、21話と連続してお送りいたしました。

 というのも既に頂いていたSSをハルカが掲載しなかったからであります(汗

 全く申し訳ない。投稿して頂いた者としてレイさんと読者様方のお二方に謝罪いたします。

 すみませんでしたm(_ _)m

 さて、本来のコメントに戻ります。と言ってもハルカは『AIR』をプレイしたことがない(!)ので詳しくは不可能なんですが…

 今回は舞台そのものを移してということもあり、レイさんの仰るとおり少し異色のものに仕上がったのではないでしょうか?

 ですが元ネタを全く知らないハルカでもちゃんと楽しめましたから、そのあたりは流石ですね(^^)

 レイさん、どうもありがとうございました!

 

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